予備試験を目指すヘボ受験生が書いたヘボい答案を晒すブログ

2019年12月から本格的に司法試験・予備試験の勉強を始めた私が書いたヘボ答案を晒すブログです。

『工藤北斗の実況論文講義 刑法(第2版)』第9問の私の答案 

【問題文をざっくり言えば】

強盗の実行着手前の共犯の離脱の問題でした。

 

 

なぜ問題文がざっくりなのかについてはこちら。

shitpapers-of-law.hatenablog.com

 

 

【私の答案】

第1、乙の罪責

1、丙・丁がA宅で押し入り現金を奪った行為は強盗罪(236条1項)が成立する。丙らにA宅に押し入り強盗する話を持ちかけ、丙らとともに計画を立てた乙の行為につき、同罪の共同正犯(60条)が成立しないか。

⑴もっとも、乙は犯行当日の朝になり高熱を発したため、実際の強盗行為には参加していない。かかる場合においても、乙は丙らと「共同して犯罪を実行した」」(60条)と言い得るか。

ア)共同正犯の処罰根拠は、構成要件該当事実の実現に至る因果性を共同で惹起した点にある。かかる因果性の惹起は実際の実行がなくても可能であるから、自己の犯罪を実現する正犯意思と、共同性を根拠づける意思連絡とが認められれば、「共同して犯罪を実行した」といえる。

イ)乙は強盗に使用するナイフは各自で準備しようと持ちかけており、丙らのナイフを積極的に用意したわけではないが、多額の保険金を得たA宅に現金があることを丙らに知らせ、それを強取する計画を三人で立てたのであるから、本件計画に不可欠な役割を果たしている。そしてもし実行に参加し現金を奪っていたのなら、その一部を自己のものにしていただろうことは容易に考えられる。よって、乙には正犯意思が認められる。

そして、計画を丙らと共有しており、丙らとの意思連絡があったことは明らかである。

ウ)よって、乙は丙らと「共同して犯罪を実行した」と言い得る。

⑵しかし、乙と丙らの共犯関係が肯定できたとしても、乙は上記強盗行為が実行される前の時点で、「俺はこの件から手を引く」と丙らに申し向け、両名の了承を得ていた。この事実をもって、乙が丙らとの共犯関係から離脱したと言えないか。

共犯からの離脱の有無の判断基準が問題となる。

ア)前述のように、共同正犯の処罰根拠は、犯罪実現に至る因果性の共同惹起にある。そうだとすれば、共犯関係からの離脱はかかる心理的・物理的因果性を除去したか否かで判断すべきである。

イ)まず、一緒に強盗すると丙らに伝えたことでより高められたと思われる丙らの実行意欲という心理的因果性は、乙の不参加表明と丙らの承諾で除去されたと言える。そして、乙は確かに強盗の話を持ちかけ丙らの犯行意欲という心理的因果性をそもそも惹起したのは間違いないが、その後の経過をみると丙らと三人で計画を立てており、少なくとも実行の着手の手前では、乙が殊更に計画を主導統制した中心人物であったとまでは言えず、かかる心理的因果性も前記した表明と承諾をもって除去されたと言える。そして、計画では、ナイフは各自で準備するとしていたので、物理的因果性はそもそもない。

ウ)よって、乙は丙らとの共犯関係から実行の着手前に離脱したと言える。

⑶したがって、甲の行為につき、本罪は成立しない。

2、では、強盗罪の教唆犯(61条1項)が成立しないか。

⑴確かに乙が丙らに強盗を持ちかけた行為は丙らに犯意を惹起させ、丙らはその犯意によって本件強盗を実行したので、同罪の客観的構成要件に該当する。しかし、上記のように乙は明らかに事故の犯罪を実現する正犯意思を有しているのであり、2次的責任類型である教唆犯の主観的構成要件を欠くといえる。

⑵よって、同罪は成立しない。

3、もっとも乙が強盗のためにナイフを用意し、丙らと具体的な計画を立てた行為は本件強盗の準備行為であるから、強盗予備罪(237条)の構成要件に該当し、同罪が成立する。よって、乙はその罪責を負う。

第2、甲の罪責

1、甲が乙にナイフを貸した行為につき、強盗罪の幇助罪(62条)は成立するか。

⑴狭義の共犯の処罰根拠は、構成要件該当事実の実現に至る因果性を、正犯を介して間接的に惹起した点にある。よって、正犯なくして幇助犯は成立しえない。

⑵本件では乙に強盗罪が成立せず本罪の正犯を欠くので、同罪は成立しない。

2、では、甲の同行為に強盗予備罪の幇助は成立するか。

⑴前述の狭義の共犯の処罰根拠に照らせば、乙に強盗予備罪が成立している以上、本罪の正犯は欠いてなく、また「強盗に使うのでナイフを貸してくれ」と言われているから、強盗予備罪の幇助の故意に欠けるところはない。

⑵よって、本罪は成立し、甲はその罪責を追う。

以上

 

【感想】

今朝書いた前記事で共犯がわからん、なんにもわからんと泣き言を言っていたわけですが。笑

 

shitpapers-of-law.hatenablog.com

 その後、腰を据えて、先入観を排して、大げさに言えば虚心に山口厚先生の『刑法(第3版)」の共犯のところを読みました。

わかったのかはわかりませんが、それでも共犯論の問題意識ぐらいはわかってきたのようなきてないようなそんな気はします。

ですから、前の問題よりは(間違ってるかもですが)自分なりの理解を前提に迷いなく書けました。

 

①実行行為を欠く共同正犯(共謀共同正犯)

という問題意識で書きました。

まあ、内実が変わるわけではないのでしょうが。

ただ工藤先生の解説にもあるように、分量的にはもっと抑えたほうがよかったと思ってます。乙の共同正犯性が問題になる事例では確かになかったかも。

メインはあくまで共犯の離脱でしょうから、サクサク処理して良かったんだと思います。

 

②共犯の離脱

前記事でボヤいてた共犯の因果性?因果的共犯論?の意味というかイメージがやっと少しずつ出てきたように思います。

ここの処理については『判例ラクティス刑法Ⅰ 総論』355Pの安田拓人先生の「概観解説 共同正犯論」での記述が大変参考になりました。

 

それを参考に、あえて(学説?判例も?否定している)形式的な整理をすると

 

⑴実行の着手前の離脱の要件

原則:(明示・黙示の)離脱の意思表示と了承で足りる【東京高裁昭和25年9月14日】

例外:離脱者が犯罪の指示命令をした中心的人物の場合は、共謀以前の状態に戻す必要がある【松江地裁昭和51年11月2日】

⑵実行の着手後の離脱の要件

他の共犯者の犯罪継続のおそれを消滅させる積極的措置【最高裁平成元年6月26日】

 

ということなんだと思います。

ただ、これはあくまで形式的なパターン処理にすぎず、離脱者が惹起した構成要件該当事実の実現への因果性を除去したかを事情に照らして、実質的に検討するのが筋なんだと思います。

じゃあなんで、上みたいな実行の着手の前後で分かれる定型化が起こるのかと言えば、結果発生の現実的危険性を作るのがまさに「実行の着手」(43条本文)に他ならないからのだと理解しました。

この問題集が第4問で扱っていた「実行の着手」の有無の話と全く同じ価値観がここで妥当するのに気づいて感動しました。気づいたら当たり前なんでしょうけど。笑

ただ、単独犯のはぼちぼち書けるけど共犯は全然書けなかった私にすると、単独犯と共犯は全く違う価値観で動いている(共犯が修正された構成要件だから、そういう側面もあるんですが)とどこか勘違いをしてました。

じゃないんかい!ていう感動をしたので書いときたかったのでした。笑

 

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だから、これから私がこの論点を書く際に気をつけたいのは、上記の形式的なパターン処理は頭の中にとりあえずもっといて、けども記述としては因果性の除去にフォーカスをあてて有無を心理的因果性・物理的因果性を実質的に検討していくべきなのかな、と思ってます。

というか、【松江地裁昭和51年11月2日】はそういう考え方から出てきたんでしょうし。

 

で、その松江地裁の判断から照らすと、今回の乙さんて、話を持ちかけたから中心人物なんじゃねーの?という迷いが出てくるので、そこを意識したあてはめをしたのでした。

松江地裁では暴力団の親分かなんかが子分に師事出して、途中で帰ってこいっていったけど、子分がそのまま続けたみたいな話なんで、そりゃ計画を支配統制できる中心的人物でしょうね、と思うですが。

この乙さんがそれと同列かなー?て感じで書きました。

工藤先生の解答例もそういう感じでした。

 

これ、評価次第では中心人物になっちゃうんですかね。

だとしたら、なかなか頑張らなきゃいけないんですよね、乙さん。

熱出してるのにね。

強盗なんか人に持ちかけるもんじゃないですね。

 

③共犯から離脱した者の教唆犯の成立可能性

こんな論点あるのですな。

今回、山口先生の本を熟読してギアが上がってる状態で臨んで、「あれ?これ、教唆が成立するんでは?」と思って書きました。

で、解説読んだら小さく触れられてたので、自分の問題意識がそんな的外れじゃなくて良かったと思うと同時に、『実況論文講義』やっぱ凄いな、と思いました。

でも、工藤先生の解答例にも予備試験合格者の解答例にも触れられてないんで、書かないほうがよかったのですかね。

私はこう結論づけたけど、どうなんでしょう。

狭義の共犯と共同正犯が同時に成立しうるもんなんでしょうか。

「自分の犯罪を実現する」正犯意思と「他人の犯罪を実現する」故意が併存しても良いって考えに立てば、理屈の上では筋が通るんでしょうが…

どうも私にはピンときませんね。

 

④正犯なき(狭義の)共犯

これはねー、論点に飛びついちゃいましたよねー。笑

直前に山口厚先生の本を読んで見た論点だったので、事情を見て反射的に甲を幇助犯と考えてしまいました。

まあ、強盗罪に関してはそれもありなのかもですが、そこにひきづられた結果、予備罪の共同正犯の論点を落としてしまったのでした。

正犯可能性→(狭義の)共犯の可能性と検討する意識を持たないといけないな、と反省。

けど、それに気づけたのでやってよかったミスでした。

 

⑤予備の共同正犯

こんな論点もあるんですな。

でも工藤先生の解説曰く百選に載ってるレベルの有名判例らしいので書かないわけには行きますまい。

で、『判例ラクティス』を読んでみました。(昔の百選は捨てちゃって、今は判プラしかないのです)

 

事案としては、被告人Xは、YがZを殺害するから毒物を調達してくれと頼まれて、調達したけど、結果的にYは別の方法でZを殺したんだそうです。

 

で、検察はXを殺人予備罪の共同正犯、予備的訴因(メインがダメな時はこっちの検討お願いします的な起訴。確か。笑)として殺人予備罪の幇助犯で起訴。

 

その後、裁判は1審と2審の判断が割れる激しい過程を辿ったのですね。

1審は他人予備(他人がやる犯罪の予備罪の正犯。多分。笑)は認めず、予備的訴因の殺人予備罪の幇助犯という構成を採用した。

2審は予備的訴因の殺人予備罪の幇助犯の構成を否定して、他人予備として殺人予備罪の共同正犯という構成を採用した。

で、被告人側が上告。

さて、最高裁の判断は?となって、上告棄却。つまり、高裁の構成を是とした。

つまり、①予備罪の共同正犯、②他人予備の共同正犯という構成を認めたのだと。

 

この時、高裁が殺人予備罪の幇助犯を否定した理由が振るっていて「予備罪と幇助犯は両方、修正された構成要件でしかもそれぞれ『無定型、無限定』なんだから、それを一緒に適用したら、処罰範囲がめちゃくちゃ拡張されるわい」というものでした。

 

これは多分こういうことです。

 

今日、山口先生の本を読んで知ったのですが、広義の共犯は全て基本的構成要件(単独犯や既遂犯などシンプルでわかりやすい構成要件)の処罰拡張規定なんだと。

例えば、強盗の二人組の実行共同正犯なんかは片方が被害者を縛って片方がタンスを漁ってなんてして犯罪を実現するけど、単独犯しか想定できないなら、被害者を縛った方は暴行罪(かな?監禁?笑)しか成立しないで、タンス漁った方は窃盗しか成立しない。

共犯なんて、なんなら単独犯より犯罪実現の危険があるのに、これじゃまずいってんで、基本的構成要件の処罰範囲を拡張したんが共犯規定だと。

で、幇助犯はそこに入る。

 

で、未遂犯、予備罪も処罰拡張規定です。

原則、犯罪は既遂(結果が発生する)までいかないと罰せられないけど、その中でももっと危険な犯罪は結果発生の現実的危険が発生した(実行の着手)時点で罰する(未遂罪)し、もっともっと危険な犯罪は現実的危険性が発生してなくても準備した段階で罰する(予備罪)と。

 

・未遂犯がない犯罪は横領罪とか。(今調べて初めて知ったが)

・未遂犯があるけど予備罪がないのは窃盗罪とか。

・予備罪がある横綱危険犯罪は殺人罪、強盗罪、放火罪、内乱罪などなど超怖い犯罪群の中で通貨偽造罪見てほっこり。でも確かにね、社会的影響エグいもんね。

 

何が言いたいかっていうと、既遂・単独犯を原則におく刑法典の中では、共犯も未遂罪も予備罪も例外だってことです。

そんな例外的な処罰拡張規定をホイホイ気軽に合わせ技で適用したら著しく処罰範囲が広がって、国民の自由の保障が出来なくなっちゃうよ、ってのが高裁の持った危機感です。きっと。

 

だからこの判決書いた高裁の裁判官が、上で晒したホイホイ認めてる俺の答案見たらめっちゃ怒るんでしょうね、きっと。近づかないようにしよう。

いや、でも本当に目から鱗でした。膝打ちましたね。

 

と思っていたら、「ん?それは共同正犯もなのでは?」と思い、ギブアップして工藤先生の解答例を確認したら、高裁が幇助行為を表現した「無定型」て文言を意識した論証をされてました。

幇助犯と共同正犯の違いは「無定型」かどうかということですかね。

なるほど、わからん。

 

で、その後、共犯と身分というところに議論が流れて、そこまで基本書を読んでない私の理解を超えてしまいました。笑

ということで、次の問題を解きます。笑

 

それにしても気づきの多い問題でした。

山口厚先生の本を熟読したのもあって、少しだけ成長したかもと思えたのでした。

 

え、5735文字?

自分が書いた文章の異常な長さにドン引きしたので、この辺で。

 

 

 

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