『工藤北斗の実況論文講義 刑法(第2版)』第11問の私の答案
【問題文をざっくり言えば】
総論の最後ですね。
経理部長に業務上横領を教唆した事例でした。
経理部長の乙、教唆した甲の両方を検討する問題です。
なぜ問題文がざっくりなのかについてはこちら。
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【答案作成状況】
・時間制限
なし
・基本書・判例集の参照
山口厚『刑法(第3版)』、『判例プラクティス 刑法Ⅰ』、ネットに転がっていた刑法各論の構成要件まとめリスト
・解答例の事前参照の有無
なし
【私の答案】
第1、乙の罪責
1、乙がA社の預金口座から200万円を引き出した行為は、業務上横領罪(253条)にあたるか。
⑴構成要件該当性
ア)乙は、A社の経理部長としてA社の預金口座を管理しており、この事務は社会生活上の地位に基づき反復継続している「業務上」のものである。
イ)そして、「自己の占有」は事実上の占有のみならず法律上の占有を含むところ、乙はA社より引き出し権限を付与されていたので、上記A社の200万円は「自己の占有する他人の物」といえる。
ウ)そして、A社と乙には雇用契約などにもとづく委託信託関係が認められる。
エ)そして乙には、本来の権利者たるA社を排除し上記200万円を得て、自己の息子のために費消という形で利用する意図があり、不法領得の意思がある。
オ)また、かかる不法領得の意思の発現として上記行為に及んでいるので、「横領した」といえる。
カ)よって、上記行為に本罪の構成要件該当性は認められる。
⑵よって、本罪は成立し、乙はその罪責を負う。
第2、甲の罪責
1、甲が乙に上記業務上横領(253条)行為をするように提案した行為は、同罪の共同正犯(60条)にあたるか。
⑴もっとも253条は「業務上」性を求める構成的「身分」犯(65条1項)である。甲は既にA社を懲戒免職されているので「業務上」性はない。
ア)かかる構成的身分がないものに構成的身分犯の共同正犯は成立しうるか。
イ)共同正犯の処罰根拠は法定された構成要件に該当する事実にいたる因果性の共同惹起にあり、かかる惹起は構成的身分がなくても可能である。よって、成立しうる。
⑵では甲の上記行為につき本罪の構成要件該当性を検討する。
ア)もっとも、甲は実際の引き出し行為をなしていない。そこで甲に共同正犯(60条1項)は成立するか。
イ)前記処罰根拠に照らし、60条の「共同」性を基礎づける意思連絡と「正犯」性を基礎づける正犯意思があれば共同正犯は成立する。
ウ)甲は乙に「会社の金を持ち出して」などと横領行為を勧める旨を甲に申し向け、それによって甲は横領しているので意思連絡はある。しかし、乙はあくまで自己を懲戒免職したA社に復讐する目的のみをもって、上記行為に及んでいる。すなわち自己のために本件で横領した200万円を得る目的を有しないので、正犯意思に欠ける。たしかに乙は甲より結果として5万円を受け取っているが、この授受は事前に約束したものでもなく200万円という金額に比べ軽微といえるから、この事実だけをもって正犯性を基礎づけることはできない。
エ)よって、甲の行為に共同正犯は成立しない。
⑶よって、甲の行為は本罪構成要件に該当しないので、本罪は成立しない。
2、そうだとしても、甲の上記行為は業務上横領罪(253条)の教唆犯(61条1項)にあたらないか。
⑴第2の1と同様、253条に定められる構成的身分を甲は欠き、同罪の教唆犯成立可能性が問題となるが、教唆犯の処罰根拠が犯罪実現への因果性の正犯を介した間接惹起にある点からすると、甲においてもかかる惹起は可能であるから、教唆犯の成立は可能である。
⑵では、その構成要件該当性を検討する。
甲の提案行為で乙は業務上横領罪の遂行意思を抱き、その意思に基づき実行した。そして、故意も欠けることはないので、構成要件該当性は認められる。
⑶よって、甲の行為には業務上横領罪(253条)の教唆犯(61条1項)が成立する。
⑷もっとも、甲は業務上横領罪の構成的身分を欠くので65条2項との均衡から、単純横領罪(252条1項)の限度で刑を科される。
以上
【感想】
全体の反省としては、答案構成をもっと工夫したかったという点、検討すべき犯罪(今回は盗品等無償譲受け罪ですか)を1つ落としてしまった点ですね。
で、結果、罪数処理にいかないという切ない結末です。
まあ後者は勉強していけば徐々に減って行くんでしょう。それでも落とすなら、その時に意識をつけれる具体的な対策をすりゃいいと思ってます。
でも、答案構成の工夫は今からでも出来るので。
で、今回でいうと、個人的には共同正犯の検討→狭義の共犯の検討という型を尊重したいと思ってます。
それは第9問でやらかしたこともあるし、罪が重い方から検討すべしというのもあるし、今回は正犯性の認定で使える事情があったからです。
でも、そうすると答案が膨らみがちなんですね。
それでも型を…と思って別個に書いたんですが。
予備試験の合格者の答案を見て、ちょっと感動しました。
すぐに教唆犯に突入するんですけど、その冒頭で正犯性がないので共同正犯ではなく教唆犯で検討する旨をを述べてるんですね。
えーと、つまり私の答案は
第1、甲の罪責
1、共同正犯の検討
⑴構成要件該当性
⑵不成立
2、教唆犯の検討
⑴構成要件該当性
⑵成立
て感じで、まあ素朴にしてるんですけど、その方の答案は
第1、甲の罪責
1、教唆犯の検討
⑴今回は正犯性がないから共同正犯は成立しないので教唆犯で検討する
⑵構成要件該当性
⑶成立
みたいな感じにしてて、おおー、なるほどーと思いました。
最低でも数行稼げると思うんですね。
上は自分で書いてても重複してる感があって嫌でしたもの。
この辺も吸収したいと思いました。
①業務上横領罪の構成要件
実際はここまで丁寧にあてはめないんでしょうが、各論の論文作成経験がないので練習であてはめました。こんな感じでいいのだろうか。
各論は基本、暗記ゲー、処理ゲート評判を聞きますが、なんとか各罪の特徴を理解して丸暗記を回避したいところ。
②共犯と身分
⑴構成的身分なきものへの(広義の)共犯成立可能性
身分のない者も、身分のある者の行為を利用することによつて、 強姦罪の保護法益を侵害することができるから、身分のない者が、身分のある者と 共謀して、その犯罪行為に加功すれば、同法六五条一項により、強姦罪の共同正犯 が成立すると解すべきである。
「保護法益を侵害すること」を「構成要件該当事実の実現の因果性」と書き換えているんですが。
で、この理屈は間接惹起する狭義の共犯でも妥当すると思うんで、ナイーブに広義の共犯全体で使おうと思ってます。
ただ、その書き換えより心配なのが理屈の流れが微妙に違う気もしないでもないとこ。
うーん。
まあ、ちょっと保留ですね。
⑵二重の身分犯
で、答案作成後に工藤先生と予備試験合格者の答案例を読んでみたんですが、「業務上横領が二重の身分犯である」という問題意識があるのですね。
これが私はよくわかってないです。
どの意味で二重なんだろう?
こちらも一旦ペンディングですね。
全体でいうと、身分犯がちょっとまだ漠然とした印象しか持ってないので手応えがないですねー
でも工藤先生の解説では各論と切り離せないところらしいので、各論にとりあえずは進みます。
しかし、その意味では総論の最後の問題が各論の導入になってるんですね。
今までも前の問題の理解が次の問題で生きてきたりと、この問題集、設問の配置までいいです。
前問あたりでチンプンカンプンだった共犯論が理解できてきたかも!って手応えが出てきたので、もっと共犯の問題にあたろうと思って、ロープラの刑法を注文しました。
とりあえず基礎論点を網羅したいのもある。
以上です。
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