『工藤北斗の実況論文講義 刑法(第2版)』第2問の私の答案
【問題文をざっくり言えば】
大阪南港事件(平成2年11月20日最高裁)を素材にしたものでした。
典型的な介在事情の事例ですね。
なぜ、ざっくりなのかはこちら。
shitpapers-of-law.hatenablog.com
【私の答案】
第1、設問前段につき、殺人罪(199条)の成否
1、実行行為性と結果について
本件甲がなした、Aの頭部をゴルフクラブで数回殴打する行為は、A死亡という結果をもたらす現実的危険性を有する行為であり、同罪における実行行為性は認められる。そして、A死亡という結果は発生している。
2、因果関係
(1)しかしながら本件では、甲によるAへの殴打行為からA死亡の結果発生までの間に、BによるAへの殴打行為があったという介在事情がある。
そこで、かかる場合においても、甲のなした実行行為とA死亡の結果の間に因果関係を肯定できるか。刑法上の因果関係の有無の判断基準が問題となる。
(2)そもそも刑法上の因果関係とは、結果に対する責任を行為に帰着できるかという法的評価の問題である。よって、実行行為が有する危険性が結果として現実化したと言える場合、刑法上の因果関係を肯定できると考える。
(3)本件で甲がなした行為は、ゴルフクラブで人体の枢要部たるAの頭部を複数回にわたり殴打するもので、事実Aの死因である脳出血を惹起している。よって、上記行為はAの生命への重大な危険性を有する行為である。
一方、その後、倒れているAの頭部をBが複数回殴打するという介在事情はあるものの、死因たる脳出血はそもそも甲の行為によってもたらされている。Bによる暴行はその脳出血を幾分早めたに過ぎないのであり、かかる介在事情のA死亡という結果に対する寄与度は、甲の行為に比べて低い。
つまり、仮にBによる介在事情がなくても、その後Aは死亡していたと言えるのであるから、甲のなした殴打行為が有する危険がA死亡という結果として現実化したものと評価できる。
よって、甲のなした実行行為とA死亡という結果の間に刑法上の因果関係は肯定できる。
3、故意
そして、上記行為の際、甲はAを殺してやろうと考えているのだから、A死亡結果を十分に認識し、かつ認容しているので、同罪の故意に欠けるところはない。
4、結論
よって、甲の行為に殺人罪(199条)が成立し、甲はその罪責を負う。
第2、設問後段につき、殺人罪(199条)の成否
1、実行行為性と結果
前段同様に認められる。
2、因果関係
上記判断基準で検討する。
行為の危険性は前段と同様に認められる。
しかしながら、Aの死因となった脳出血が甲の暴行によるものかBの暴行によるものか分からなかった以上、甲の暴行行為に比べて、Bによってもたらされた暴行という介在事情のA死亡という結果に対する寄与度が低いとは言えない。
となれば、「疑わしきは被告人の利益に」という利益原則に照らして、甲の行為の危険がA死亡という結果として現実化したとまでは評価できない。
よって、甲の殴打行為とAの死亡という結果との間に刑法上の因果関係を肯定できない。
3、故意
前段同様、認められる。
4、結論
よって、後段の甲の行為については、殺人未遂罪(203条)が成立するにとどまり、甲はその罪責を追う。
以上
【感想】
数年前に刑法の勉強をしていたときに介在事情を検討する系はかなり書いた覚えがあります。
類型が結構あったように思うのですが、ほとんど忘れちゃいました。笑
けど、今の自分の理解では
問題になる行為が一個の場合、
行為の危険性を評価→介在事情の危険度(結果への寄与度)→両者を比較
という手順を踏み、
比較した結果、「行為の危険性>介在事情」ならば、因果関係肯定。
「行為の危険性<介在事情」ならば、因果関係否定。
という、割とナイーブで単純な理解ですが、どうなんでしょうかね。
理解できてるかはともかく危険の現実化のあてはめは割と楽しくて好きです。笑
あんま書くことないので、この辺で。
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