予備試験を目指すヘボ受験生が書いたヘボい答案を晒すブログ

2019年12月から本格的に司法試験・予備試験の勉強を始めた私が書いたヘボ答案を晒すブログです。

『工藤北斗の実況論文講義 刑法(第2版)』第3問の私の答案 

【問題文をざっくり言えば】

前段は殺す相手を間違っちゃった事例、後段はマネキンと間違えちゃって本当に良かった事例でした。

また、教唆犯が絡む事例です。

 

なぜ問題文がざっくりなのかはこちら。

shitpapers-of-law.hatenablog.com

 

 

第1、設問前段

1、乙の罪責

(1)建造物侵入罪(130条)の成否

乙のAを殺す目的でスーパーマーケットXに侵入した行為は、「正当な理由がないのに」、「人の看守する」「建造物」「に侵入した」行為である。(同条)よって、同罪が成立し乙はその罪責を負う。

(2)Bへの殺人罪(199条)の成否

ア)乙による、Bの胸部をサバイバルナイフで突き刺し、もってBを死に至らしめた行為は同罪の客観的構成要件に該当する。

イ)しかし、乙はAとBを勘違いし、Aを殺すという故意をもってBを殺害している。このように行為者たる乙の認識する内容と実際に起きた事実に相違があった場合において、B殺害の故意(38条1項)は阻却されないか。

ウ)そもそも故意責任の本質は、反規範的人格態度に対する道義的非難である。規範が構成要件として類型化されている以上は、認識した内容と実際に発生した事実が構成要件において符合していれば、かかる道義的非難は可能であるから、故意責任は阻却されない。

エ)本件乙が認識している内容は「人」たるBを「人」たるAと考えているものであり、乙は実際にはBを「殺した」(199条)。よって、乙の認識した内容と実際に発生した事実は同条の構成要件において符合しているので、乙のB殺害の故意は阻却されない。

オ)よって、乙の行為には殺人罪(199条)が成立し、乙はその罪責を負う。

(3)罪数

甲がなした殺人罪と建造物侵入罪とは目的手段の関係にあるので、牽連犯(54条1項)となる。

2、甲の罪責

Bへの殺人罪(199条)の教唆犯(61条1項)の成否について検討する。

(1)甲は、乙にAの顔写真を示してAの殺害の対価に報酬を支払うと約束した上、A殺害を依頼している。かかる行為は客観的には実際に起こった乙によるB殺害行為を惹起したものであり、教唆行為にあたる。そして結果Bは死亡しており、また行為と結果の因果関係を妨げるものはないから、甲の行為は同罪の客観的構成要件に該当する。

(2)しかし、甲はA殺害を依頼したにも関わらず、乙はBを殺害している。このように教唆者における認識の内容と実際に起きた事実に相違があった場合、教唆者たる甲のB殺害の故意(38条1項)は阻却されないか。

(3)前述した故意責任の本質に照らせば、教唆者の認識する内容と実行者によって実際に発生した事実が構成要件において符合していれば、教唆者においても故意責任は阻却されないと考える。

(4)本件では教唆者である甲は「人」たるAの殺害が実行されると認識し、実行者である乙によって実際には「人」たるBが殺害された。(199条)よって、甲の認識する内容と実際に起きた事実は同条の構成要件において符合しているので、甲のB殺害の故意は阻却されない。

(5)よって、甲の行為には殺人罪(199条)の教唆犯(61条1項)が成立し、甲はその罪責を負う。

第2、設問後段

1、乙の罪責

(1)Aへの殺人未遂罪(203条、199条)の成否について

ア)本件では、Aが死亡していないので、殺人既遂罪(199条)の成立する余地はない。

イ)では、本件における乙のマネキン刺突行為はA殺害の「実行に着手して」いると言えるか。(43条本文)マネキン刺突によってAの死亡は起こりえないことから、乙は不能犯として不可罰となるのではないか。不能犯と未遂犯の区別が問題となる。

ウ)未遂犯の処罰根拠が結果発生を惹起する具体的危険性に求められるところ、不能犯はかかる具体的危険性を有しないがゆえに処罰根拠を欠き、不可罰となると考える。となれば両者の区別は、かかる具体的危険性の有無で判断すべきである。そこで、行為時に存在した全ての客観的事情を基礎に、事実がいかなるものであったなら結果が発生しえたかを科学的に明らかにした上で、かかる仮定的事実の存在可能性を、一般人の感覚を基準に事後的に判断すべきである。

エ)本件で乙はマネキンをAと誤信して刺突しているが、科学的に考えれば、この刺突行為の対象がA本人であった場合は、Aが死亡するという結果は発生しえたと言える。そして、乙は人型のマネキンだからこそAと誤信したのだろうし、Aと乙が遭遇していたら乙は間違いなくAを刺突していたと考えられる。となれば、一人でスーパーマーケットXに残ることの多かったAと乙が遭遇し、Aを刺殺していた可能性は一般人の感覚をして非常に高かったと言える。

よって、A死亡という結果の具体的危険性はあったといえる。

オ)したがって、本件において、乙はA殺害の「実行に着手して」いたと言えるので(43条本文)、Aへの殺人未遂罪(203条、199条)が成立し、乙はその罪責を負う。

(2)マネキンへの器物損壊罪(261条)の成否

ア)乙がスーパーマーケットXのマネキンを刺突し破損した行為は、「他人の物を損壊した」と言え、同罪の客観的構成要件に該当する。

イ)しかし、本件で乙はAを刺突するつもりで、マネキンを刺突し損壊している。つまり、殺人罪の実行行為をなすつもりで、器物損壊罪の実行行為をなしている。このように行為者が認識している構成要件と実際に起きた構成要件に相違がある場合、故意は阻却されないか。

ウ)前述のように行為者の認識した内容と実際に起きた事実が構成要件において符合している場合に故意が認められるとすると、構成要件において符合しない場合は原則として故意は阻却されると考える。

 もっとも構成要件に実質的重なり合いがある場合は、その限度で反規範的人格態度に道義的非難が可能なので、故意責任は認められると考える。かかる実質的重なり合いは行為容態と被侵害法益の共通性をもって判断すべきである。

エ)本件において、乙が認識している内容である殺人罪の被侵害法益は人命である一方、実際になされた器物損壊罪の被侵害法益は財産権である。保護法益にすら共通性は見られないので、両者に実質的重なり合いはない。

よって、故意は阻却される。

オ)よって、甲の行為につき、器物損壊罪は成立しない。

2、甲の罪責

(1)殺人未遂罪の教唆犯の成否

第1と同様、甲には殺人未遂罪(203条、199条)の教唆犯(61条1項)が成立し、甲はその罪責を負う。

(2)器物損壊罪の教唆犯の成否

正犯である乙について器物損壊罪(261条)が成立しない以上、甲についてその教唆犯が成立する余地はない。

以上

 

【感想】

書き終わって思ったのは、長い。笑

どう考えても70分で書ききれません。

とは言え、勉強したての今、コンパクト論証にこだわるあまり理解をおろそかにはしたくないので、しばらくはこれで行くべきなんでしょう。

理解が深まれば自ずと削れるとこの見極めをできるでしょうし、問題演習でも処理は早くなるんではないかと思ってます。(信じてます)

 

①具体的事実の錯誤

数年前に勉強した際は、なんだかよくわからなくて苦手意識がありました。

方法の錯誤?対象の錯誤?因果関係の錯誤?(でしたっけ)と類型ごとの処理を覚えることに腐心していた記憶があります。

そういう類型ごとの勉強は余裕があればすべきだと思うんですけど、今の私の目標は「基礎的な原理を丁寧に理解しつつ、それでも早く7法回したい」なので、あまり細かい類型分けは今の所は放棄してます。

 

そして、今の私の薄い理解は以下の感じです。

 

故意は構成要件該当事実の認識・認容である。

だから、認識してる事実と実際に起きた事実の相違があるとき、構成要件該当事実の認識・認容をしていたと本当に言えるかが問題。

で、そもそも故意責任は反対動機を形成する契機があったのに、あえて規範に反する態度をとるのは道義的に非難されてしかるべきじゃない?

それで、その規範は構成要件で規定されてるじゃん。

だから、認識した事実と起きた事実が具体的レベルでピッタリ一致してなくても、構成要件という抽象的レベルで一致してたら規範に反したと言えるんで、非難できる=故意責任を追及できるよね

 

って感じですがどうなんでしょう。

書いてたら案外んん?と自分でも思うところはありますが。

 

②共犯と錯誤

既に司法試験勉強を頑張っておられる方には「なにを今更」なんでしょうけど、共犯は単独犯よりやっぱりずっと難しいです。

登場人数をX人とするなら単独犯に比べた難易度アップ度は、X倍ではなくX乗てイメージ。

この問題よりずっと登場人物の多い事例を時間内に処理する合格者は雲の上と思っちゃうんですけど、コツコツ勉強して追いついていくしかないですね。

 

不能犯と未遂犯の区別

これはちょっと学説対立を『基本刑法』で概観してみたけど興味深かったです。

前に勉強してた頃は判例の類型分けをする代わりに学説対立にはほとんど立ち入りませんでした。

事例処理できればいいと思っている節がありましたし。

けど、この問題を解く直前に来年の司法試験を控えたロー生と話していたところ、「今は傾向変わって学説対立は押さえたほうがいいかも」と言われたので、司法試験問題をざっくりみてみたら確かに見解の違いによる処理を要求してました。

ということで今回は学説対立をほぼ初めて見た次第。

 

「実行の着手」に要求される具体的危険性の判断基準で、どうやら具体的危険説と客観的危険説との間で苛烈な対立がある模様。

工藤先生の解説では判例の態度も定かではないようで。

たぶん相場は受験生の具体的危険説なんでしょうが(どうなんでしょう)、ちょっと相場から離れた説であてはめるのも何かの練習だ、と学説読む限り個人的にはより妥当に見えた修正客観危険説を採りました。

 

それに判例を読む限り、完全に具体的危険説に立ってるようにも思えなくて。

爆弾性能がなくなった手榴弾をそうとは知らず投げた事例(高裁昭和29年6月16日)は不能犯と評価されたけど、爆弾性能がなくなってることを一般人が知り得たとは到底思えないんですよね。

犯人投げてるし、爆弾。殺す気で。

(でも今見たら判例ではなかったですね)

ともかく「科学的に爆発しようがねーじゃん」という客観的危険説の立場で、具体的危険を判断したと思えました。

かといって、ゴリゴリの客観的危険説だと確かにほぼ全部不能犯になるので。

ということで修正客観的危険説を実験的に採りました。

 

ただ書いてわかったのが「科学的とは?」となるところ。

こんなあてはめでいいのか甚だ疑問です。

妥当な気はするんですが、試験で使うのはちょっと勇気がいる規範だなという印象でした。

自分が納得いく規範だとゴリゴリ暗記しなくていいから、嬉しいんですけどね。

 

そして学説対立は魅力的だけど、やはり時間泥棒でもあるし、やればやるほど混乱しそうな気もしました。

けど司法試験では求められるし、うーん。

とりあえず予備試験までは事案解決に徹して、しっかりとした軸を作ってから、それを基礎として学説対立に触れたほうがいい気が今はしてます。

少なくとも軸がない今やっても時間の割に理解が進まないような気がします。

それなら、まずは定型的な処理手順のストックを増やしたいと思います。

 

④抽象的事実の錯誤

今回は楽でした。

 

感想も長いな、しかし。

以上です。

 

 

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