『工藤北斗の実況論文講義 刑法(第2版)』第14問の私の答案
【問題文をざっくり言えば】
推定的同意がある場合の建造物侵入罪の成否、公務員に対する公務員執行妨害罪、威力業務妨害罪の成否を問われる事例でした。
なぜ問題文がざっくりなのかについてはこちら。
shitpapers-of-law.hatenablog.com
【答案作成状況】
・時間制限
移動しながらとかで飛び飛びでのべ8時間くらい?実際の解答時間はわかりません。笑
・基本書・判例集の参照
毎度の山口厚先生『刑法(第3版)』を参照しました。
・解答例を事前に見たか
罪数処理が分からずカンニングしました。
【私の答案】
第1、甲がA大学の教室内に立ち入った行為につき、建造物侵入罪(130条)が成立しないか。
⑴甲が立ち入ったのはA大学の教室は同大学が「看守する」「建造物」にあたる。
⑵では、甲の上記立ち入り行為は「侵入」と言えるか。
ア)甲が立ち入った教室では事件当日、A大学主催の公開講義が催されていた。となれば、A大学をして一般人の立ち入りが予定されていたと言える。かかる推定同意がある場合にも立ち入り行為は「侵入」と言えるか。
イ)本罪の保護法益が建造物の管理権と考えられるところ、「侵入」とは管理権者の意思に反する立ち入りをいう。そうだとすれば、管理者の推定的同意があっても、管理者が立ち入り行為者の真意を知れば同意しなかったであろう場合には、当該立ち入り行為は管理者の意思に反するものであるから、「侵入」といえる。
ウ)A大学による推定的同意の対象は公開講義の聴講をする目的の人であったと言える。しかし、甲の上記立ち入り行為の目的はBが集団的自衛権行使に賛成することに抗議することにあった。かかる甲の真意を知れば、A大学は上記立ち入りに同意しなかったと言えるから、甲の立ち入り行為は管理者の意思に反するものであった。よって、甲は「侵入」したと言える。
⑶よって、甲の行為には本罪は成立する。
第2、甲が、教室に入ろうとするBに対して拡声器を用いてBの発言内容を糾弾する内容をまくし立てた行為について検討する。
1、上記行為につき、公務執行妨害罪(95条1項)が成立しないか。
⑴Bは国立大学Aの教授であり、本件での公開講義はその職務の一環であったと考えられる。本罪の保護法益が公務員によって執行される職務たる公務の円滑な執行であるところ、Bの上記業務は本罪が保護する公務にあたる。
そして、公開講義のためにBが教室に入ろうとするのは「職務の執行にあたり」にあたる。
⑵しかし、本罪の「暴行」は公務員の身体に対し、間接直接を問わない不法な有形力の行使をいうところ、甲の上記行為はこれにあたらない。
⑶よって、甲の行為は本罪の構成要件に該当しないので、本罪は不成立である。
2、では上記行為につき、威力業務妨害罪(234条)が成立しないか。
⑴「威力」とは人の自由意志を抑圧する行為と考えられるところ、甲の上記行為はAが教室に入る自由意志を抑圧しうるので、「威力」にあたる。
⑵しかし、Bによる講義の実施は前述のように公務(95条1項)にあたる。公務が公務執行妨害罪で保護されるところ、Bによる講義の実施は本罪における「業務」(234条)としても保護し得るか。
ア)本罪の趣旨は、社会生活上の地位に基づき継続して行う事務または事業である「業務」を、意思を抑圧する妨害行為から保護し、もって個人の人格的自由の重要な一部である社会的活動の自由を守る点にある。となれば、公務であろうとも、この趣旨に照らしてその他の業務と変わることはないので、本罪で保護すべきである。しかし、強制力を行使する権力的な公務については、妨害行為を排除しうる実力があるのだから、本罪の保護の対象から排除しても上記本罪の趣旨に適う。よって、当該公務が本罪における「業務」にあたるかは強制力を行使する権力的公務であるか否かをもって決すべきである。
イ)まず、本件Bの公開講義の実施はA大学教授という社会生活上の地位に基づき行う事務または事業と言える。公開講義は通常の大学の授業とは違い、1回ないし数回の単発的な実施と思われるが、継続的になされる大学教授という職務の一環として実施されたのであるから、その継続性は認められ、なお本罪が保護すべき「業務」にあたり得る。そして、Bの実施する公開講義は妨害行為を排除する強制力を行使しない非権力的公務である。よって、「業務」にあたる。
⑶しかし、Bは定刻通りに講義を開始している。そうだとすると、本罪の法益たる業務の侵害という結果が発生しておらず、「妨害」の構成要件を充足しないようにも思える。そこで「妨害」は法益侵害の結果発生までを含むか。
ア)本罪には未遂罪の規定がないことを考えると、構成要件該当性の肯定に結果発生を常に求めれば、結果に至らなかった危険を有する行為を容認することになりかねず妥当ではない。よって、「妨害」該当性は、現に法益侵害が発生していることまでは要せず、法益侵害するに足りる行為があれば、肯定すべきと考える。
イ)よって、甲の上記行為の時点で本罪の構成要件該当性は認められる。
⑷よって、甲の上記行為には本罪が成立する。
第3、甲がCに奪われた拡声器を奪い返し、これを地面に叩きつけた行為について検討する。
1、甲の上記行為につき、公務執行妨害罪(95条1項)が成立しないか。
⑴警察官という公務員Cが甲を教室から連れ出すのは、「公務員が職務を執行するにあたり」と言える。
⑵そして、甲の上記行為は公務員Cの身体に対する不法な有形力の間接的な行使であるから、「暴行」にあたる。
⑶しかし、Cは上記行為に全く動じず、甲を教室から連行している。そうだとすると、本罪の法益たる公務の円滑な執行の侵害という結果が発生しておらず、構成要件を充足しないようにも思える。そこで、本罪の構成要件は結果の発生を含むか。
ア)威力業務妨害罪と同様に考察すれば、本罪の構成要件に該当するかは、現に法益侵害が発生していることまでは要せず、法益侵害するに足りる行為があれば、肯定すべきと考える。
イ)よって、甲の上記行為の時点で本罪は成立する。
2、なお、Cの教室からの連行は強制力を行使する権力的公務であるから「業務」にあたらず、威力業務妨害罪(234条)は成立しない。
第4、罪数
⑴上記のように甲には、①建造物侵入罪(130条)、②威力業務妨害罪(234条)、③公務執行妨害罪(95条1項)が成立する。
⑵①と②、①と③は手段と目的の関係にあり、①をいわゆるかすがいとして全体を科刑上一罪(54条1項)とし、甲はその罪責を負う。
以上
【感想】
多分各論ぽい問題なんでしょうね。
各構成要件の棲み分けを考えさせられました。
①「侵入」の意義
第12問でも出た話でした。
shitpapers-of-law.hatenablog.com
そこではちょっとやらかしてて、その反省から、『「侵入」とは管理権者の意思に反する立ち入りをいう』をバシッと書くのが第一目標でした。
出てきてよかった。笑
②公務(95条1項)と業務(234条)の関係
ここがなんか考え込んじゃいましたねー。
関係性は多分わかったと思います。公務は業務に含むけど、権力的公務は業務から排除するってことですよね。多分。
それ自体は割とすぐわかったんですが、それを論文のどこで書くのか迷いましたね。
多分、公務は業務に含むのか?って問題意識なんですね。だから、「業務」性のとこで書くのだと。「あれ?どっちで書くんだ?」と混乱しちゃいました。笑
さて、その両者の関係を整理する論述は丁寧めに書きました。
ここでやりたかったことを補足しときます。
公務と業務に重複がある(またはない)ということを示すとき、両者には共通点があるはずだと考えました。
個人的にはこの問題にあたるまで、立法趣旨≒保護法益と考えていました。で、そこは確かにそうなんでしょうけども。
ただ、今回気づいたのは、保護法益とは『その条文で守りたい法益』であり、立法趣旨とは『その法益を守ることで刑法は何がしたいのか』ということなんじゃないかと。つまり、比重が微妙に違うんじゃないかと。
で、保護法益レベルの話で、公務が業務に含むか(そして、どんな公務が業務に含まれないのか)という話を展開するのは、なんとなく地に足が着いてない空中戦をしているような心許ない感覚を抱きました、えらく抽象的な表現で恐縮ですが。
で、その観点からすると
威力業務妨害罪の保護法益は『社会的地位に基づき継続して行う事務』である業務で、立法趣旨はそれを守ることで『人格的自由の一部としての社会活動の自由を守る』ということにある。このレベルで話したほうが公務に業務性があることと権力的公務が業務から排除される話が腑に落ちるなーと思いました。
我ながら妙なとこで迷いましたが、まあそんな理解を示したつもりだったのです。
さて、ここのあてはめでは業務の継続性についてこだわった論述もしました。
それは、継続性を否定(よって「業務」性を否定)した裁判例【東京高裁昭和30年8月30日】も出ているようなので、そこを意識した論述でした。で、その視点へのアンサーとして【大判大正10年10月24日】の枠を使いました。
実際の問題で使うかは別として、一度この視点で書いたのはよかったと自分では思ってます。
そして、威力業務妨害罪(そして、公務執行妨害罪)の結果発生の要否、言い換えると抽象的危険犯かどうかという論点を悩みましたねー。
なんで抽象的危険犯なんや、と思いました。笑
山口先生の『刑法(第3版)』からはその明確な理由づけが見つけられず、自分なりに考えました。
視点としてはここで結果発生を求めることの不都合性です。
結果の発生しない業務妨害罪(と公務執行妨害罪)の実行行為が許容されるとした場合、仮に業務が表面上成立しても(公務が円滑に執行されても)、やっぱり業務(と公務)には大変な負荷がかかると思うのです。
例えばコンサート会場に爆弾仕掛けたとか電話するパターン。(これ、威力?偽計?意思は抑圧しそう。棚上げして先に進みます。笑)
で、爆弾あるかないかをがっつりチェックして爆弾がないことを確認して定時にコンサートを開催できたとします。
その表面上の業務(公務執行)の成立は、業務(公務)をした人が頑張って結果を発生させなかったに過ぎないのであって、めちゃくちゃ負荷はかかるわけです。だから、行為自体に可罰性は肯定していい気がする。
しかも、その業務の人が頑張ったかどうか、しかもそれが結実したかどうかという妨害行為者に帰属しない事由を根拠に、罰っせたり罰っせなかったりは、やっぱ妥当じゃない気がします。お前、関係ねーじゃん、と。
そんな理解を未遂犯がないことと掛け合わせて論じてみたのでした。
と、ここまで書いたところでふと気づいたのですが、爆弾あるかないかをがっつりチェックしてる時点で、現実的・具体的に妨害という法益侵害が発生したことになるんでは?と思いましたよね、うん。
だからね、未遂犯を作ればいいと俺は思うんだよね。笑
③罪数論
よく分からないです。笑
呉明植先生の『刑法総論』で10Pくらいでまとまってた気がしたので、しばらくはそれを片手に問題演習にあたろうと思います。
ちなみに今回のようにある一つの行為がA罪とB罪にあたりうる時の結論は論理的には4つあると思っていて。
⑴AとBにあたる
⑵Aだけにあたる(Bにはあたらない)
⑶Bだけにあたる(Aにはあたらない)
⑷AにもBにもあたらない
だと思う。
今回は⑵とか⑶とかのパターンだったと思うんですが、⑴の場合はどうなるんですかね。すげー基本的な知識くさいんですけど。笑
一回カチッとやればパズルみたいな感じで解けるんでしょうかね。頑張らなきゃ。
以上です。
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ありがとうございます。
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