『工藤北斗の実況論文講義 刑法(第2版)』第12問の私の答案
【問題文をざっくり言えば】
殺意を隠して立ち入りの同意を得た立ち入り行為。
あとは怪我してる被害者を置き去りにした行為ですね。
なぜ問題文がざっくりなのかについてはこちら。
shitpapers-of-law.hatenablog.com
【答案作成状況】
・時間制限
なしですが測りました。68分。タイピングが遅いのもありますが、それ差し引いてもやっぱり予備試験合格者てすごい。
ほとんど新幹線ですな。
・基本書・判例集の参照
事例だけ見て昨日、山口厚先生の『刑法(第3班)』の住居侵入罪、遺棄罪を読みました。
・解答例を事前に見たか
読んでないです。
【私の答案】
第1、甲の罪責
1、甲がAの宿泊している部屋に立ち入った行為に、住居不法侵入罪(130条)が成立しないか。
⑴「住居」は日常生活に使用する場所であり、この使用はホテル宿泊などの一時使用も含まれる。よって、甲はAの「住居」に立ち入った。
⑵では、甲の立ち入りは「侵入」といえるか。
ア)Aは甲をホテル従業員と誤信し、その立ち入りを同意している。
かかる錯誤ある立ち入りの同意が有効か問題となる。
イ)そもそも本罪の保護法益は、住居管理者が誰を立ち入らせ誰を立ち入らせないを決める自由である。よって、「侵入」とはかか同意の欠ける立ち入り行為をいう。もっとも、管理者を害する意図を秘して同意を得るなど、行為者の真意を知れば管理者が同意をしなかったであろう場合は、当該同意は無効である。
ウ)甲はホテルの従業員を装って、A宿泊の部屋に立ち入る同意を得ている。同意をした相手がホテル従業員でなく、なによりも甲のAへの殺害実行の意図を持っていることを知っていれば、Aはかかる同意をしていなかったであろうことが認められる。よって、Aが甲にした立ち入り同意は無効であり、甲の立ち入りは同意なくした行為であるから、「侵入」にあたる。
⑶よって、甲の行為には本罪が成立する。
2、殺人未遂罪(199条、203条)
甲が殺意をもってAの背中を包丁で突き刺した行為には殺人罪の実行行為にあたるが、Aは一命をとりとめた。よって未遂犯(43条本文)あたり、本罪が成立する。
3、罪数
甲の行為には、住居不法侵入罪(130条)、殺人未遂罪(199条、203条)が成立する。前者は後者を目的とした手段行為であるから、牽連犯(54条1項)となり、甲はその罪責を負う。
第2、乙の罪責
1、遺棄罪(217条)
⑴Aを見つけた乙は、血を流すAを救助することなく置き去りにして立ち去った。かかる置き去り行為に本罪が成立するか。
なお、乙はAの客室に宿泊していた宿泊客であり、保護責任(218条)を認めうる特別な事情はないから、単純遺棄罪で検討する。
⑵Aは背中を刺され血を流して意識を失っていたので、「疾病のために扶助を必要とする者」といえる。
⑶では、乙による置き去り行為は「遺棄」したといえるか。その意義が問題となる。
ア)置き去り行為は不作為であるため、その可罰性を認めるには作為義務を要すべきである。よって、作為義務の根拠となる保護責任が構成要件にない本罪の「遺棄」は、作為である移置行為だけを意味すると考える。
イ)乙がAを移動させたなどの事情はなく、置き去りにしたのみであるから「遺棄」したとは言えない。
2、よって、乙の行為には本罪は成立しない。
第3、丙の罪責
1、では、乙同様にAを置き去りにした丙の行為には、保護責任者遺棄罪(218条)が成立するか。
⑴Aが上記状況にあるので「病者」にあたる。
⑵では、丙はかかるAを「保護する責任のある者」といえるか。
ア)丙は乙と異なり、ホテル従業員である。ホテル従業員はホテル内におけるトラブルなどの処理をその業務の一環として通常期待されており、またかかる期待は過大とは言えない。
よって、丙には少なくとも条理上、Aを「保護する責任のある者」であったといえる。
⑶では丙はAを「遺棄」したといえるか。本罪の「遺棄」の意義が問題となる。
ア)上述の通り、単純遺棄罪が置き去り行為を実行行為としないのは作為義務を基礎づける保護責任がないためである。よって、保護責任を構成要件にする本罪においては作為義務を行為者に求めることに支障はない。よって、本罪の「遺棄」には不作為の置き去り行為を含むと考える。
イ)よって、丙のAを置き去りにした行為は「遺棄」にあたる。
2、よって、丙の行為には、保護責任者遺棄罪(218条)が成立し、丙はその罪責を負う。
以上
【感想】
全体として。私はWardで答案構成をして、そのまま答案作成するのですが、ナンバリングごとの話出しが統一されてなくて気持ち悪いですね。
工藤先生や予備試合格者の答案を見て気づいたけど、罪が不成立でも罪責の負う負わないをちゃんと明示してますね。見習わねば。
殺人未遂の引用条文を43条にしてしまったり、牽連犯は54条1項後段まで書かなきゃ、と条文引用のアラが見えますね。これは気をつけんと。
論点はどうやら落とさずに済んだようです。ちょっと嬉しい。
①「侵入」の意義
「住居権者の意思に反する立ち入り」とバシッと決めたいとこでした。同意のない立ち入りだと、間接的で微妙ではありますが推定的同意のある場合が弾かれそうな感じですもんね。
あと「住居で」起臥寝食て文言は必須なんですかね。
あまりに普段の言葉から離れてるし、間違いちゃいそうなんですよね。
あ、でも仕事場とかを排除するためには必要なんだろか。
②錯誤に基づく同意
ぎもう行為(タイプで出ず)という言葉は使いたいとこでした。
あとは「被害者の意思決定にあたり重要な影響をもつ錯誤」もちゃんと書きたいですね。
③「保護責任」の発生根拠
先行行為などを列挙してないんんですよね。まずいのかな。どうも考慮要素系は書くべきか方針が安定しません。
工藤先生、予備試験合格者の答案では、宿泊契約に少なくとも付随する安全配慮義務から保護責任を導いてました。なるほどですね。
山口厚先生の『刑法(第3班)』でも、割と広めに肯定するのが判例の傾向らしいので、案外大胆に肯定していいのかもです。
④「遺棄」の意義
この辺はとりあえずの理解を示した感じですね。
今にして思えば、遺棄罪の保護法益である「生命及び身体」などは絡めた論証をすべきだったように思います。
以上です。
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